広島県府中支部
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2026年6月5日

「季のむら」── 出口町の空き家を、4つの仕事と1つの庭にした事例

広島県府中市出口町に、元医院として築かれた立派な空き家がありました。家具も仏壇も、生活用品もそのまま残っていた家を、解体せず、ひとつの建物に4つの仕事と、ひとつのコミュニティを宿す場所に変えました。場所の名前は「季のむら」。府中支部事務局・有限会社 由工房が直接リノベーションと運営に関わった事例として、所有者・出店者・地域への伴走プロセスを記録します。

【案件概要】

  • 所在:広島県府中市 出口町
  • 建物:元医院/木造2階建
  • 用途:美容院・ネイル・タイ式マッサージ・デザイナースタジオ
  • 運営:有限会社 由工房(府中支部事務局)

出口町の、大きな空き家

府中市出口町に、ある空き家がありました。かつて医院として使われていた大きな家で、立派な庭、本格的な茶室、応接間、6畳の和室、2階には2つの居室。築年数は経っていましたが、骨格はしっかりしていて、何より家の格がありました。

所有者さまから「住む人がいない。ただ、思い出のある家を簡単に壊したくはない」とご相談をいただいたのが入口です。府中支部事務局として、まず現地調査と所有者ヒアリングを実施し、「壊さずに活かす」前提でいくつかの活用パターンを一緒に検討しました。

「壊さない」という選択

空き家活用の選択肢は、おおむね5つあります。①住む/②売る/③貸す/④壊す/⑤活かす。今回は所有者さまの「壊したくない」という強い想いを軸に、⑤活かすに振り切る判断をしました。

ただ、活かすにも条件がありました。残っていた家具や仏壇、茶室の意匠をどう扱うか。捨てる/売る/残すを一律に決めるのではなく、ひとつひとつ、所有者さまと相談しながら線引きしていきました。

  • 仏壇は、ご家族のご希望で形を変えて残す
  • 茶室と本格的な庭は、共用空間として活用
  • 応接間と和室は、テナントスペースに転用
  • 家具は、状態の良いものを什器として再利用

4つの仕事を、ひとつ屋根の下に

季のむらに入居しているのは、いずれも子育て世代の個人事業主の方々です。

  • 美容院(応接間を改装)
  • ネイルサロン(6畳和室の一部を改装)
  • タイ式マッサージ(2階居室を改装)
  • デザイナースタジオ(離れの一室を改装)

所有者さまの「思い出を残したい」という想いと、出店者の「店舗を持ちたいが、新築や単独テナントは負担が大きい」というニーズ──このふたつの間に橋を架けるのが、府中支部事務局の役割でした。

仏壇と茶室を、どう扱ったか

このプロジェクトの最大の論点は、仏壇と茶室の扱いでした。

「家のなかで、もっとも家らしいところを残す。残せないなら、形を変えてでも気配を残す。」(所有者さまヒアリングより)

季のむらでは、次のような線引きをしました。

  • 仏壇:ご家族のご希望で所有者宅へ移設(コンパクトに作り直し)
  • 茶室:解体せず、共用ラウンジ兼イベントスペースとして残す
  • 庭:テナント全員の共用コミュニティスペースとして活用

「捨てる/残す」の二択ではなく、「形を変えて残す」という第三の道を選んだのが、季のむらの大きな決断でした。

庭は、誰のものか

立派な庭をどう扱うかは、もうひとつ悩んだポイントでした。テナント1軒ずつに割り当てると、いちばん良い区画と悪い区画が生まれます。それでは長続きしません。

季のむらでは、庭をテナントの専用ではなく、共用のコミュニティスペースとして位置づけました。お客さまも、テナント同士も、季節のイベントも、すべてこの庭を使う。共用にすることで、不公平を消し、人の交流を増やす。これは結果的に、テナント同士の関係性も良くしました。

所有者・出店者・支部のあいだで、何をしたか

府中支部事務局として、季のむらで具体的に行った伴走業務は次の通りです。

  • 所有者ヒアリング(2回)と、空き家活用5パターンの提示
  • 建物現況調査・耐震性評価・利活用可能エリアの図面化
  • 出店者候補のマッチング(地域の個人事業主ネットワークから)
  • 賃貸条件の調整(家賃水準・共用部の費用負担・什器引継ぎ)
  • リノベ設計・施工(有限会社 由工房が直接実施)
  • 運営フェーズの伴走(テナント間調整・庭の共用ルール策定など)

【支部事務局の役割】
所有者と出店者を「つなぐ」だけでなく、設計・施工・運営フェーズまで含めて、所有者さまの「壊さずに残したい」という想いが現場で具体化されるまで伴走するのが、府中支部事務局の関わり方です。

季のむらが、私たちにとって意味すること

季のむらは、府中支部にとって、ひとつの仮説検証の場でもあります。

  • 空き家は、解体せずとも価値を生み出せる
  • 所有者の想いと、出店者のニーズを橋渡しすれば、新築でなくても店は持てる
  • 庭や茶室といった「使い切れない空間」も、共用にすれば価値が反転する
  • 地域の子育て世代の個人事業主にとって、こうした場所はかけがえのない選択肢になる

季のむらは、府中支部として今後も伴走を続けたい事例のひとつです。所有者さま・出店者の皆さま・地域のお客さまに支えられながら、私たちもまた学んでいます。

※本記事は、全国空き家アドバイザー協議会 広島県府中支部の活動報告として公開しています。リノベーション設計・施工は有限会社 由工房が直接担当しました。技術的な施工プロセス・什器選定・古材の扱いについては、由工房コラム「『季のむら』── 元医者の家を、4つの仕事と1つの庭にした話」(https://yui-kobo.co.jp/column/kinomura/)をご覧ください。
※本記事に登場する個人情報は、所有者さま・出店者の皆さまのご了承を得て公開しています。

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